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前橋地方裁判所 昭和47年(ワ)29号 判決

原告(反訴被告)

南雲知久平

ほか一名

被告

北毛菱和自動車株式会社

被告(反訴原告)

千明博文

主文

被告千明博文は原告南雲知久平に対し金九四五万二、四八四円およびこれに対する昭和四七年四月二二日以降右完済まで年五分の金員を、原告荒巻建材有限会社に対し金二三八万八、二九七円およびこれに対する昭和四七年四月二二日以降右完済まで年五分の金員を支払え

反訴被告南雲知久平、同荒巻建材有限会社は各自反訴原告千明博文に対し金一四万〇、九五四円およびこれに対する昭和四八年一月三一日以降右完済まで年五分の金員を支払え

原告南雲知久平、同荒巻建材有限会社の被告北毛菱和自動車株式会社に対する請求および被告千明博文に対するその余の請求、反訴原告千明博文の反訴被告南雲知久平、同荒巻建材有限会社に対するその余の請求は棄却する

訴訟費用は原告南雲知久平、同荒巻建材有限会社と被告千明博文との間においては本訴、反訴を通じ右原告らに生じた費用の三分の一を被告千明博文の負担とし、その余は各自の負担とし、右原告らと被告北毛菱和自動車株式会社との間においては全部右原告らの負担とする

この判決一、二、四項はかりに執行することができる

事実

一  本訴事件において当事者が求める判決

(一)  原告南雲知久平

被告北毛菱和自動車株式会社、同千明博文は各自原告に対し金一、五三七万一、九八五円およびこれに対する昭和四七年四月二二日以降右完済まで年五分の金員を支払え

仮執行宣言

(二)  原告荒巻建材有限会社

被告北毛菱和自動車株式会社、同千明博文は各自原告に対し金六三六万五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四七年四月二二日以降右完済まで年五分の金員を支払え

仮執行宣言

(三)  被告ら

原告らの請求を棄却する

二  本訴事件における当事者の主張

(一)  原告南雲知久平

「請求原因」

1  昭和四六年九月一三日午後五時一五分頃、渋川市行幸田町二五〇番地先道路上で被告千明博文運転の軽四輪貨物自動車(本件軽四)と原告南雲運転の大型貨物自動車(本件トラツク)が衝突し、この事故で原告は負傷した。

2  右事故は被告千明の過失(左右の安全不確認など)で発生した。

3の1 被告北毛菱和自動車株式会社(被告会社)は右事故当時、被告千明の使用者であり、右事故はその事業の執行につき生じたものである。

3の2 被告会社は右事故当時、本件軽四を自己のため運行の用に供していたものであり、右事故(これに基づく原告の負傷)はその運行により生じたものである。

4  損害

(1) 治療費 九五万二、四八〇円

(2) 付添看護費 九万一、五〇〇円

右は一日一、五〇〇円の付添看護費に入院中の付添日数六一日を乗じたものである。

(3) 逸失利益 一、四一八万八、〇〇五円

原告南雲は右事故当時、自動車運転手として年収九七万五、〇〇〇円をえていたが右事故による負傷のため右下腿中央より欠損の後遺障害を受け労働能力の七九パーセントを失つた。原告の就労可能年数は三一年であるからその間に年五分の中間利息を控除しても前記額をくだらない逸失利益損害が生ずる。

(4) 慰謝料 二二〇万円

(5) 弁護士費用 一三九万円

5  よつて以上損害合計一、八八二万一、九八五円から支払済自賠保険金三四五万円を控除した残額一、五三七万一、九八五円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年四月二二日以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

(二)  原告荒巻建材有限会社

「請求原因」

1  昭和四六年九月一三日午後五時一五分、渋川市行幸田町二五〇番地先道路上で被告千明運転の本件軽四と原告南雲運転の本件トラツクが衝突した。

2  右事故は被告千明の過失(左右の安全不確認など)で発生した。

3  被告会社は右事故当時、被告千明の使用者であり、右事故はその事業の執行につき生じたものである。

4  損害

(1) 車両損害 五四四万五、〇〇〇円

本件トラツクは原告会社所有で、事故直前の価額は五五四万円であつたが、右事故により大破し、九万五、〇〇〇円に価額が減少した。

(2) 他車損害負担 九二万円

右事故で本件トラツクは対向ダンプカーと二重衝突したが右ダンプカーの修理費など九二万円は原告会社が負担することになつている。

5  よつて以上損害合計六三六万五、〇〇〇円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年四月二二日以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

(三)  被告ら

「原告南雲の請求原因に対する認否」

その1は認める。

その2は否認する。

その3の1、2は否認する。

その4は不知。

「原告会社の請求原因に対する認否」

その1は認める。

その2、3は否認する。

その4は不知。

「過失相殺の主張」

本件事故発生については原告南雲にも過失(安全速度違反など)があるから損害額の決定についてはこの点が斟酌されるべきである。

(四)  原告ら

「過失相殺の主張に対する認否」

原告南雲の過失は否認する。

三  反訴事件において当事者が求める判決

(一)  反訴原告千明博文

反訴被告荒巻建材有限会社、同南雲知久平は反訴原告に対し金七〇万四、七七一円およびこれに対する昭和四八年一月三一日以降右完済まで年五分の金員を支払え

仮執行宣言

(二)  反訴被告ら

反訴原告の請求を棄却する。

四  反訴事件における当事者の主張

(一)  反訴原告

「請求原因」

1  昭和四六年九月一三日午後五時一五分頃、渋川市行幸田二五〇番地先道路上で反訴被告南雲運転の本件トラツクと反訴原告運転の本件軽四が衝突し、この事故で反訴原告は負傷した。

2  右事故は反訴被告南雲の過失(安全速度違反など)で発生した。

3  反訴被告会社は右事故当時、反訴被告南雲の使用者であり、右事故はその事業の執行につき生じたものである。

4  損害

(1) 治療費 三二万七、〇〇〇円

(2) 入院雑費 六、二〇〇円

右は一日二〇〇円の雑費に入院日数三一を乗じたものである。

(3) 付添看護費 一万円

右は一日一、〇〇〇円の付添看護費に入院中の付添日数一〇を乗じたものである。

(4) 休業補償 一〇万一、五七一円

反訴原告は右事故当時、自動車再生修理業を営み月収六万四、八三三円をえていたが右事故による負傷のため事故の翌日以降四七日間休業を余儀なくされ、その間右額のうべかりし収入を失つた。

(5) 慰謝料 二〇万円

(6) 車両損害 六万円

本件軽四は反訴原告所有で事故直前の価額は六万円であつたが、右事故により大破し無価値化した。

5  よつて以上損害合計七〇万四、七七一円およびこれに対する本件事故後である反訴被告らに対する反訴状送達の翌日(昭和四八年一月三一日)以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

(二)  反訴被告ら

「反訴請求原因に対する認否」

その1は認める。

その2は否認する。

その3は認める。

その4は不知。

「過失相殺の主張」

本件事故発生については反訴原告にも過失(左右の安全不確認など)があるから損害額の決定についてはこの点が斟酌されるべきである。

(三)  反訴原告

「過失相殺の主張に対する認否」

反訴原告の過失は否認する。

五  証拠〔略〕

理由

一  本訴原告南雲知久平の請求の当否

(一)  同原告の請求原因1は当事者間に争いがない。

(二)  以下、同原告の請求原因2について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、

1  本件事故発生現場は、渋川市行幸田町二五〇番地先の、北は沼田方面、南は高崎方面に通ずる幅員(但し車道部分)七米の見通しのよい直線道路の被告会社中古車センター駐車場前附近で、道路に沿つて小工場、店舗、ガソリンスタンドなどが並んでいるが速度制限はなされていないこと、

2  被告千明は本件事故が発生した昭和四六年九月一三日午後五時一五分頃、右中古車センターから本件軽四に乗り、右記道路に左折して出て、南(高崎方面)に向おうとして、中古車センターの、道路に接する出口にある空地の道路手前(道路端から約一・五米手前)で一時停止し、まず右(沼田方面)を見たところ、原告南雲運転の本件トラツクが右方約三七・九米地点を進行してくるのを認め、次いで左(高崎方面)を見たところ訴外角田勝運転の普通貨物自動車が左方約三六・六米地点に進行してくるのを認めたが右方から進行してくる本件トラツクの速度(実際には時速約四七粁であつた)は判らぬままに、本件トラツクは減速してくれるだろうから、その前方に左折して出ても本件トラツクに追突などされることはないと思い、発進し、左折しながら、進行してくる本件トラツクの前に出、未だ五米程しか進行せず、時速も約一〇粁程度にしか達しないとき、本件軽四に追突することをさけるため中央線をこえて右側車線に出てこれを追い越そうとした本件トラツクの左前輪ホイールが本件軽四の右側ボデイに接触し、本件トラツクはそのまま右側車線を進行し、折から対向してきて停止しようとし、停止直前の状態にあつた右記角田運転の貨物自動車と正面衝突し、両車とも横転したこと

が認められる。〔証拠略〕中には、被告千明は道路に出る前に一時停止していない、と述べる部分があるが、この点に関しては一時停止した旨の記載ある被告千明の供述調書(甲第二一、二五号証)の方を信用する。他に右認定に反しこれを覆すだけの証拠はない。

処で被告千明は道路に出る前に左右(左折して道路に出て左方に向うのであるから特に右方の安全確認が大事であるこというまでもない)の安全を確認したとき、右方約三七・九米を本件トラツクが進行してくるのを認めながら敢えて左折しながら道路に出て行つたのであるが、これは極めて危険な行為である。けだし被告は前記のように右方の安全を確認してから左方の安全確認をなし、発進(操作を)し、約一・五米進行して道路に出たのであるから、右方の安全確認から道路進出までには少くとも一秒程度の時間はかかると思われ(その間本件トラツクの速度は時速四七粁、秒速一三米であるから少くとも約一三米接近することになる)、更に自動車の加速力からして発進直後の速度は極めて低速である(接触時の本件軽四の時速は前記のように約一〇粁である)から、被告千明運転の本件軽四は時速四七粁で進行してくる本件トラツクの約二〇数米前方にのろのろと進出したことになり、そのまま両車進行すれば追突は殆んど必至であり、本件トラツクが急停止の措置をとつてもその制動距離(いわゆる空走距離も含む)からすれば衝突の可能性が大であるからである。

従つて被告千明としては、右方の安全の確認をして本件トラツクの進行してくるのを認めた際、その速度を確認し、それが前記のような時速四七粁程であれば危険な道路進出を断念すべきであり、正確な時速が不明でも、速度制限の行われていない道路があるから右程度の速度を推測して同じように道路進出は断念すべきであつたと思われる。そのようにせず、不完全な安全確認をして道路に出た被告千明はその点において過失の非難を免れることはできない。

(三)  以下、同原告の請求原因3の1について検討する。

原告は、被告会社と被告千明間には使用、被用の関係があつた、と主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。

すなわち右両者間に通常の雇傭関係を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、〔証拠略〕によると、本件事故が発生した昭和四六年九月当時、被告千明は被告会社の従業員ではなかつたことがうかがえる。

〔証拠略〕によると、同被告は昭和四六年二月頃から被告会社の注文で継続的に自動車の修理などを請負い、その修理工場敷地、建物は被告会社のあつせんで他から賃借し、同年六、七月頃には北毛菱和再生修理工場という看板もあげていたことが認められるが、被告千明の右修理工場が被告会社の修理部門の一つであつたり、そうでなくても被告会社に従属し、被告会社の指揮監督に服していたことまでを認めるに足りる証拠はなく、〔証拠略〕を総合すると、被告千明は被告会社の代表者林菊広の親戚に当り、かつては林の経営する自動車屋で働いていたこともあつたが昭和四五年頃は新潟県で自動車修理工として働いており、かねて実家のある渋川市に帰りたく思つていたところに林から渋川に帰つて自動車修理業を営むようにすすめられたので、昭和四六年、渋川に帰り、同年二月頃から必要工具を買つたり、他店の設備を利用したりして修理業をはじめたこと、注文は主として被告会社からのものであつたが他からの注文も引受けており、一ケ月六万円程の収入をえていたこと、被告会社は自社に整備部門をもち、自動車販売の際の下取自動車のうち程度のよいものは自社で整備し、程度の悪いものを被告千明の右修理工場ほか五乃至六軒の修理工場に修理を委託していたこと、すなわち被告千明の右修理工場は主として被告会社からの注文に頼つている極めて小規模なものではあつたが一応被告会社からは独立した一つの事業体であり、被告千明は被告会社から特別な指揮監督などを受けず自らこれを運営していたことがうかがえる。

従つて前記原告の主張は採用できない。

(四)  以下、同原告の請求は原因3の2について検討する。

原告は、被告会社が本件軽四の運行供用者であつた、と主張するが右を認めるに足りる証拠はない。

〔証拠略〕によると、本件軽四の登録番号は群七三九六号と報告され、同登録番号は被告会社が三菱製の車両を回送するために交付を受けた臨時運転番号であることが認められる。〔証拠略〕を総合すると、本件軽四は本件事故の数ケ月前に被告会社の中古車センターの主任和田昭徳が訴外丸山某から買受け、廃車届をなし、右中古車センターに置いてあつたのを被告千明が代金六万円程で買受け、登録番号標のついていない本件軽四を自宅に持ち帰るべく運転して中古車センターを出たところで本件事故をおこしたので、和田昭徳は三菱製の車両にしか使えない前記臨時番号標二枚を富士重工業製である本件軽四の前後に各一枚づつ置いたため右軽四の登録番号は前記のように群七三九六号と報告されたものであることがうかがえ、和田昭徳から修理するようにといわれて本件軽四を持ち帰るべく外に出たところで事故にあつた、と被告千明の供述記載がある甲第二一号証は右記証拠に照らすと措信しがたく、他に本件事故当時被告会社が本件軽四の運行供用者であつたことを認めるに足りる証拠はない。

(五)  以下、同原告の請求原因4について検討する。

(1)  治療費(是認額九五万二、四八〇円)

〔証拠略〕によると、原告南雲は本件事故で腹部打撲傷、右下腿挫断創などを負い、関口病院に昭和四六年九月一三日以降同年一一月一二日まで(六一日間)入院治療を受け、その間の治療費総額は九五万二、四八〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  付添看護費(是認額九万一、五〇〇円)

原告南雲本人の供述によると、右入院全期間を通じ原告南雲には付添看護が必要で、同原告の姪が終始付添看護をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、一日の付添看護費は一、五〇〇円とみるべきであるから右入院期間六一日間の付添看護費総額は九万一、五〇〇円となる。

(3)  逸失利益(是認額一、一八〇万九、九八〇円)

〔証拠略〕によると、原告南雲は本件事故前は健康な男子(昭和一七年五月生)で、原告荒巻建材にダンプ運転手として勤務し、年間九七万五、〇〇〇円の収入をえていたが、本件事故による負傷のため右下腿中央より切断手術を受けてこれを失い、これに伴つて終世労働能力の約八割を失つたとみられること、ダンプ運転手としての就労可能年令は五八才位であることが認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はない。

そうすると原告南雲は右労働能力喪失のため就労可能の二九年間に年五分の中間利息をライプニツツ式計算方法で控除しても一、一八〇万九、九八〇円(前記九七万五、〇〇〇円の八割に当る七八万円に係数一五・一四一を乗じた金額)のうべかりし収入を失つたことになる。

(4)  慰謝料(是認額二二〇万円)

前記入院期間、後遺障害よりすると原告南雲の負傷による慰謝料の額は原告主張の二二〇万円をくだることはない。

(5)  弁護士費用(是認額八五万九、三一六円)

右(1)乃至(4)の是認損害合計一、五〇五万三、九六〇円に後記原告南雲の過失割合(二割)を控除した残額一、二〇四万三、一六八円から支払済自賠保険金三四五万円を控除した残額は八五九万三、一六八円となるから弁護士費用はその一割に当る八五万九、三一六円をもつて相当と認める。

(六)  以下、被告の過失相殺の主張について検討する。

〔証拠略〕によると、原告南雲は本件事故当日、荷台部分に積載量をふやすための装置(あおりと称する枠)をつけた本件トラツク(最大積載量一〇・五トン。従つて道路交通法施行規則二条の大型自動車に当り、その最高速度は道路交通法施行令一一条により毎時五〇粁)に川砂約一二トンを積み、時速約四七粁で本件道路を沼田方面(北)から高崎方面(南)に向つて進行し本件事故現場手前にさしかかつたとき、前方約二三・三米の道路左側、北毛菱和中古車センターから被告千明運転の本件軽四が高崎方面に向つて左折しながら道路に進出してくるのを認めたので、それとの追突をさけるため、急ブレーキをかけ、かつハンドルを右に切つて反対車線に出たがその際その左前輪ホイールが右軽四の右側ボデイと接触し、更に、対向してきていて停止直前であつた角田運転の貨物自動車と正面衝突し両車とも横転したことが認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はない。

処で前記(理由一・(二))のように本件道路には特別の速度制限はなされていなかつたのであるから、本件トラツクの前記速度(毎時約四七粁)は制限速度内であつたことにはなるが、自動車の運転手は制限内速度で進行すればよい、というものではなく自動車および道路の状況に応じて安全な速度で進行しなければならない(道路交通法七〇条)ものであるところ、本件道路は前記のように見通しのよい直線道路ではあるが道路の両側には小工場、店舗などが並んでおり、自動車、人の突然の横断、進出が予想される道路であるうえ、本件トラツクは大型自動車であるばかりでなく、その積載量をふやすための「あおり」をつけ、当日も最大積載量をこえる約一二トンの川砂を積んでいたのであるから当然重心が高く、制動距離も長くかかるのであるからその運転に当つては細心の注意が必要であり、これらからすると本件トラツクの前記速度は安全上いささか高速に過ぎたものと思われ、更に前記のように被告千明は本件道路に進出する前に一時停止し左右の安全を確認し、右方約三六・六米地点に進行してくる本件トラツクを認めているのであるから原告南雲側としても被告千明の軽四を少くとも三六・六米左前方に発見可能であつたことになる。しかし原告南雲は被告千明が安全確認後本件道路に進出した時点以降の軽四を前方二三・三米ではじめて発見しているのであるから左前方に対する注視もいささか不十分であつたと思われる。

これら二点の原告南雲の過失と前記被告千明の過失の割合は前者二、後者八とみるのが相当である。

(七)  そうすると本訴原告南雲の被告千明に対する請求は前記弁護士費用を除く損害合計一、五〇五万三、九六〇円の八割に当る一、二〇四万三、一六八円に弁護士費用八五万九、三一六円を加算した額一、二九〇万二四八四円から支払済自賠保険金三四五万円を控除した残額九四五万二、四八四円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年四月二二日以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める範囲において理由があることになるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、被告会社に対する請求は失当として棄却する。

二  本訴原告荒巻建材有限会社の請求の当否

(一)  同原告の請求原因1は当事者間に争いない。

(二)  同原告の請求原因2が認められること前記(理由一・(二))のとおりである。

(三)  同原告の請求原因3が認められないこと前記(理由一・(三))のとおりである。

(四)  以下、同原告の請求原因4について検討する。

(1)  車両損害(是認額二九八万五、三七二円)

〔証拠略〕によると、本件トラツクは昭和四六年七月原告会社が代金四九二万円で群馬三菱ふそう自動車販売株式会社より購入したものであるが本件事故で大破したので右購入会社で修理し、修理費として二九八万五、三七二円の支出を余儀なくされたことが認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はない。しかし右以上の車両損害を認めるに足りる証拠はない。

(2)  他車損害負担(是認額なし)

本件トラツクと訴外角田運転の貨物自動車が正面衝突したことは前記のとおりであり、〔証拠略〕によると、右角田は右事故により八五万円の損害を受けたとして富士火災海上保険株式会社に保険金の支払を請求し、保険会社は保険金八二万円を支払い、保険代位に基づき場合によつては原告会社に対しても原告南雲の使用者として責任追及の意思あることを表明していることは認められるが、このことだけで原告会社に右金額につき確定的な債務負担、それに伴う損害発生があつたということはできない。

(五)  原告南雲側には二割の過失が認められること前記(理由一・(六))のとおりである。

(六)  そうすると本訴原告会社の被告千明に対する請求は前記是認すべき損害二九八万五、三七二円の八割に当る二三八万八、二九七円およびこれに対する本件事故後である昭和四七年四月二二日以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める範囲において理由があることになるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、被告会社に対する請求は失当として棄却する。

三  反訴請求の当否

(一)  反訴請求の原因1は当事者間に争いがない。

(二)  反訴請求の原因2が認められること前記(理由一・(六))のとおりである。

(三)  反訴請求原因3は当事者間に争いがない。

(四)  以下、反訴請求原因4について検討する。

(1)  治療費(是認額三二万七、〇〇〇円)

〔証拠略〕によると、反訴原告千明は本件事故で頭部、腹部、右腰部打撲傷などを負い、昭和四六年九月一三日から同年一〇月三〇日までの四八日間関口病院で治療を受け(その間三一日間入院)、治療費総額は三二万七、〇〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  入院雑費(是認額六、二〇〇円)

一日当りの必要雑費二〇〇円に右入院日数を乗ずると六、二〇〇円となる。

(3)  付添看護費(是認額一万円)

〔証拠略〕によると、反訴原告は右入院期間のうち一〇日間、付添看護を必要とし、その妻などが付添看護をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、一日の付添看護費は一、〇〇〇円をくだることはないから一〇日間の付添看護費一万円は是認できる。

(4)  休業補償(是認額一〇万一、五七一円)

本件事故当時、反訴原告が自動車修理業を営み、一ケ月約六万円の収入をえていたこと前記(理由一・(三))のとおりであり、〔証拠略〕によると、反訴原告は前記負傷のため事故発生の翌日(昭和四六年九月一四日)以降約二ケ月半は就労できなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると六万円に二・五を乗じた額の範囲内である原告主張額一〇万一、五七一円は全額是認できる。

(5)  慰謝料(是認額二〇万円)

前記治療期間よりすると反訴原告の負傷による慰謝料の額は二〇万円とみるのが相当である。

(6)  車両損害(是認額六万円)

本件軽四は反訴原告が代金六万円位で買受けたものであること前記(理由一・(四))のとおりであり、〔証拠略〕によると、右軽四は本件事故で使用不能な程大破したことが認められるから、反訴原告はそのことにより右代金額相当の損害を受けたとみることができる。

(五)  本件事故発生につき反訴原告側に八割の過失が認められること前記(理由一・(二)・(六))のとおりである。

(六)  そうすると反訴原告の反訴請求は前記是認すべき損害合計額七〇万四、七七一円の二割に当る一四万〇、九五四円およびこれに対する本件事故後である昭和四八年一月三一日以降の民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める範囲において理由があることになるからこれを認容し、その余は失当として棄却する。

四  訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条一項本文、仮執行宣言につき同法一九六条適用。

(裁判官 上杉晴一郎)

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